職場におけるパワーハラスメント防止指針

厚生労働省が職場における パワーハラスメント防止指針(「事業主が職場における優越的な 関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 令和2年厚生労働省告示第5号)を公表しました。
 パワーハラスメント防止措置が今年6月1日 (中小企業は2022年4月1日)からの義務化に先立って公示し、企業内においてパワーハラスメントの防止に向けた適切で有効な措置を講ずるための必要な事項を定めたものです。指針は、パワーハラスメントの定義を示したうえで、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」などの類型ごとに「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」をあげています。
 都道府県労働局の個別労働関係紛争処理法に基づく労働相談の中でも、 ハラスメント(いじめ・嫌がらせは)は、この10年あまり、常にトップになっています。経営者の皆様には、それだけリスクのある問題なのだという観点で、指針をご覧いただければとおもいます。
 さらに言えば、パワーハラスメントについてはこれまで、民事紛争として個別労働関係紛争処理法に基づく労働局長の助言や紛争調整委員会のあっせんの対象とされていたのですが、今後は、 局長の権限がより強い紛争解決の援助等(最も厳しい措置としては企業名の公表)や、調停会議による調停(関係者の事情聴取ができるなど、あっせん以上に事実関係が詳しく把握することが可能)の対象となります。この点も、意識していただきながら、紛争の未然防止や企業内での早期解決のための施策を検討いただくことが望まれます。
職場におけるパワーハラスメントの定義
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については 、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
パワーハラスメントの類型と該当例等
1. 身体的な攻撃(暴行・傷害)
「該当すると考えられる例」 
① 殴打、足蹴りを行うこと、② 相手に物を投げつけること
「該当しないと考えられる例」
① 誤ってぶつかること
2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)  
「該当すると考えられる例」
① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱 責を繰り返し行うこと
③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること
「該当しないと考えられる例」
① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注 意をすること
② その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること
3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
「該当すると考えられる例」
① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること
② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること
「該当しないと考えられる例」
① 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること
② 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること
4. 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験 とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
「該当すると考えられる例」
① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること
② 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと
「該当しないと考えられる例」
① 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること
5. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
「該当すると考えられる例」
① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環 境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること
② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、 達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること
「該当しないと考えられる例」
① 労働者を育成するために現状よりも少し高い レベルの業務を任せること
② 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること
6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
「該当すると考えられる例」
① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること
「該当しないと考えられる例」
① 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと
② 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと

「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針等の一部を改正する告示」(令和2年厚生労働省告示第6号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584516.pd