「休日」は意外と難しい…その2 「休日振替」、「代休」、「変形休日制」
「休日」は意外と難しい「その1」では、原則である週1休制(労基法35条1項)と、それと関わる週休2日制と休日割増(37条)の関係等についてご説明しました。
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ここでは、「その2」として、「休日振替」と「代休」、週1休制に対する例外である4週4休の変形労働時間制について、休日労働や時間外労働に対する割増の関係等について考えてみます。
【休日振替】
「休日の振替」とは、休日と定められていた日を労働日とし、もとは労働日であった日を休日とする、いわば休日と労働日を交換することです。したがって、もとの休日であった日に働いても、休日労働割増は発生しません。なお、労基法35条は「休日を特定することを要求していない」(昭23.5.5基発682号)と解されますが、行政通達が「特定することが法の趣旨に沿うものであるか、就業規則の中で…具体的に一定の日を休日と定める方法を規定するよう指導」(前掲揮発682号、昭63.3.14基発150号)としていることなどから、特定されていない例は稀と思われます。
〇「休日振替」を行うための要件(昭63.3.14基発150号)
・就業規則に振替休日を規定する(例えば、「業務の都合により会社が必要と認める場合には、休日を他の労働日と振り替えることがある」)。なお、振替の具体的事由、振り替えるべき日を定めることが望ましいとされています。
・あらかじめ(※)振り返るべき日を特定して振り替えること。
・4週4日の休日が確保されること。
・振替により休日が労働日となった週の労働時間が40時間を超えた場合は、時間外労働割増を支払うこと。
※「あらかじめ」とは「前日以前」と解されます(昭27.7.31基収3786号)。本来の所定休日をその休日以降に到来する労働日と振り替える「繰り下げ」の場合は労働日となる休日の「前日まで」、本来の所定休日をその休日以前にある労働日と振り替える「繰り上げ」の場合は、休日に振り替えられる労働日の「前日まで」に、通知していれば適法と解されています(安西愈「労働時間・休憩・休日の法律実務(全訂6版)」397頁)。
〇「週休1日」のもとでの振替
・下図は、週休1日制という労基法35条の原則のもとでの休日振替のイメージです。週休1日制の企業は、2022年の厚労省就労条件総合調査よれば1割弱ですが、休日振替の基本形として取り上げます。「休日振替」を行うことができる要件のうち、就業規則での規定と事前指定の要件は満たされているという前提です。
・例1は、同一週内の振替ですので、格別の手続きをしなくとも、週休1日の原則は満たしており(従って「4週4休の休日の確保」の要件も満たしており)、35条に対しては適法となります。なお、第1週が週労働時間40時間超になる場合には、その時間については時間外労働割増(1.25以上)での賃金の支払いが必要になります。
・例2は、第1週をみると、週休1日という休日の原則(労基法35条1項)に外れています。このような振替の場合(振替が第3週、第4週のときも同様)、「週休1日の規定は、4週間を通じて4日の休日を与える使用者には適用しない」という労基法35条2項による「変形休日制」を採用する必要があります。「4日以上の休日を与えることとする4週間の起算日を明らかにする」(労基則12条の2、2項)にもとづいて、例えば「振り替えようとする休日の属する週の最初の日を起算日とする」旨を就業規則等に定めておく必要があります。上の例2でいえば、第1週の日曜を起算日とする第4週までの「特定の4週間に4日の休日がある」(※)ことになり適法です。なお、第1週が40時間超になる場合には、その時間について割増率(1.25以上)が必要となることは、例1と同様です。
※「特定の4週間に4日の休日があればよく、どの4週間を区切っても4日の休日が与えられなければならない趣旨ではない」(昭23.9.20基発1384号)
〇「隔週週休2日」や「完全週休2日」での振替
・隔週週休2日の場合の振替の例を示したのが下の図です。同一週内での振替では「週1休」が維持されることは上の「週休1日制」の場合と同様ですので、以下では、別の週の労働日との振替の例を挙げています。
・この場合も、第1週については「週休1日」の原則から外れていますので、35条2項により「4週4休」以上を適用することになり、上の例2と同様に、「振り替えようとする休日の属する週の最初の日を起算日とする」旨を就業規則等に定め、「変形休日制」によることになります。また、第1週について、40時間超の時間がある場合には割増率付(1.25以上)の賃金支払いが必要です。
・完全週休2日制度の場合の休日振替についても、下の図で念のため確認しておきます。
この場合、法定休日の定めがない場合だけでなく、法定休日の定めがある場合でも、「週休1日」の原則は維持されていおり、「変形休日制」の規定を設ける必要はなく、第1週について、時間外割増が必要かどうかに留意すればよいことになります。
〇週40時間超の時間外労働の処理
・休日振替が同一の賃金計算期間内である場合で週40時間超の時間外労働が発生した場合、計算期間内でみた所定労働日数は変わっていませんので、完全月給制で日給月給制であれ、振替休日になったもとの労働日に支払うべき「単価×1.00」の賃金を、労働日になった日に支払ったと考えられます。結果的には、「単価×0.25」の支払いが残ることになります。
・休日振替が賃金計算期間をまたいで行われた場合、例えば、先の賃金計算期間の労働日が1日増え、次の賃金計算期間の労働日が1日少なくなる例で考えると、労働日の日数にかかわらず同一の固定給が支払われる完全月給制では、先の計算期間について「単価×1.25」の賃金が発生し、次の計算期間についての控除は行われないことになります。日給月給制の場合は、次の計算期間について、労働日数が1日少ない分の減額があり、2つの計算期間を通してみれば、清算調整により「単価×0.25」が残る結果となります。
【代休】
〇「休日振替」との違い
・上でみたとおり、「休日振替」は、「あらかじめ振り返るべき日を特定すること」が要件です。「代休」は、「あらかじめの特定」ではなく、事後的に、休日労働をしたこと等の代償として休ませることを言います。
・代休を与える者は使用者になりますが、民法上は賃金請求権の消滅になりますから、就業規則上の根拠規定が必要です。就業規則等の定めがない場合、労働者の個別同意(黙示の同意を含む)でも可能です。
・代休日は、原則としては、使用者の指定によりますが、就業規則等で労働者の指定を認めていれば、使用者の承認を前提として可能になります。
休日振替との相違を整理すれば、下表のとおりとなります。
・労働した休日が法定休日であればその日についての休日割増、法定外休日であればその日を含む週の労働時間が40時間を超えた場合には時間外労働割増が必要になります。代休として休んだ日について賃金を支払うかは就業規則等の定めによります。賃金控除の定めがあることを前提として、賃金の支払いをしなくとも問題はありません。