週60時間超の割増率5割以上へ 36協定届、施行日を含む割増率、代替休暇 

2023年4月1日からは、中小企業にも月60時間を超える時間外労働について、割増賃金率がこれまでの25%以上から50%以上に引き上げられます。これに関連して、お尋ねを頂くことがある実務的な問題について、ご説明します。

 1. 時間外休日協定届(36協定届)-60時間超の割増率5割と追記しなくてはならないのか 
 2. 2023年4月1日を含む賃金・割増率計算期間の取り扱いについて
 3. 代替休暇について

1.時間外休日協定届(36協定届)-60時間超の割増率5割と追記しなくてはならないのか
 対象期間に法施行日の2023年4月1日、またはそれ以後の日を含んでいる36協定届の届出に際して、限度時間(月45時間又は42時間)を超える時間外労働が必要になる場合の特別条項付きの協定届で、例えば月80時間と記載したときは、割増賃金率の欄に「月60時間を超える部分については50%」と記載しなくてはならないのかというお尋ねを頂きます。これについては、そのような記載の必要はないというのが当事務所としてのお答えです。
 平成22年に施行された大企業の36協定届で、そうした記載がないものも受理されていたという事実からしても、4月1日から適用される中小企業も同じ扱いでよいはずということですが、そうした取り扱いの根拠については、以下のとおりです。
・36協定届について規定している労基法第36条第2項及び36条第2項の第5号について定めた労基則第17条をみても、36協定届について、「月60時間を超えた時間に関する割増賃金の率を定める」旨の規定が見当たらない。
・労基則第17条第1項第5号は「限度時間を超えた労働に係る割増賃金の率」を記載すべきとしていますが、「限度時間」とは「月45時間(42時間)、年360時間(320時間)」のことで、この規定を「月60時間を超えた時間に関する割増賃金の率」を記載すべきと読むことはできません。特別条項でも、一般条項と同じ割増賃金率(例えば25%)を定めたとしても、36協定の記載の要件は満たしていると考えます。
【必須の対応事項-就業規則改定】
 36協定届とは別の法令上の義務への対応として必須なのが就業規則の改訂です。時間外労働の割増賃金率は就業規則の絶対的必要記載事項ですから、法施行に伴って、例えば、以下のように規定する必要があります。
 (割増賃金)
 第○条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
 (1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月〇日を起算日とする。
   ① 時間外労働60時間以下・・・・25%
   ② 時間外労働60時間超・・・・・50%

2. 2023年4月1日を含む賃金・割増率計算期間の取り扱いについて
・厚生労働省のリーフレットは、賃金計算期間1か月の起算日を4月1日(月末締)とした60時間超の部分を例示しています。休日労働(図のオレンジ色の部分)は含まず、時間外労働だけについて計算するので、図の緑色の部分からが60時間超になります。 なお、図は、深夜労働はなかった場合を示していますが、仮に24日以降で深夜労働が含まれている場合には、その部分の割増率は、時間外割増賃金率50%以上に深夜割増賃金率25%以上を加えた75%以上となります。

 しかし、実際のところ、賃金計算期間の起算日は企業によりさまざまです。例えば、21日起算(20日締)の場合は、計算期間の中に、法施行日4月1日を含んでしまいます。このような場合の60時間超の有無はどこから計算するのでしょうか。結論から言えば、法の施行日である4月1日以降の賃金計算期間(4月20日まで)で時間外労働を積算すればよいのです。その一例が以下の図です。この場合、4月1日から20日までの間の時間外労働は計34時間ですので、60時間超はないということになります。

 このような扱いになる根拠は、大企業に週60時間超・割増率5割以上が適用された当時の通達にあります。
 「4月1日を含む1か月については、施行日から時間外労働時間数を累計して60時間に達した後に行われた時間外労働について、5割以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要」ということです。なお、「1か月とは暦による1か月」であり、その起算日は、「毎月1日、賃金計算期間の初日、時間外労使協定における一定期間の起算日等とすることが考えられるが、就業規則において…定めがない場合には…賃金計算期間の初日を起算日と…取り扱う」とされています。(引用はいずれも、平21.5.29基発第0529001号)

3. 代替休暇について
 1か月60時間を超える法定時間外労働を行った場合、労働者の方の健康を確保する観点から、労使協定の締結を条件として、割増率の引上げ分の代わりに、年次有給休暇以外の有給の休暇(「代替休暇」)を付与することができるとされています(労基法第37条第3項)。労使協定の締結が制度導入の条件ですが、この労使協定は労働者に代替休暇の取得を義務付けるものではありません。代替休暇を取得するか50%以上の割増率での賃金で受け取るかは、労働者の意思にゆだねられています。労使協定の例は巻末をご参照ください。
 代替休暇の導入状況は、60時間超の割増率5割以上の改正労基法施行の翌年、2011年の就労条件総合調査では1000人以上規模の14.3%に対して30人~99人規模では25.3%、2014年の同調査では1000人以上規模の17.1%に対して30人~99人規模では27.03%と、企業規模が小さくなるにつれ採用率が高まっています。4月1日から60時間超の割増率5割以上が適用される中小企業についても、一定の導入ニーズがあることがうかがわれます。
①代替休暇の時間数:労使協定事項
 休暇の時間数は、「60時間超の時間外労働時間数」×「60時間超の割増率-60時間以下の割増率」で求めます。月の時間外労働時間80時間、割増率50%(60時間超)、25%(60時間以下)の場合、代替休暇は、次のような計算により5時間になります。この場合の「0.25」=「換算率」は、労使協定での協定事項です。
 (80時間-60時間)×(0.5-0.25)=20時間×0.25=5時間 
②代替休暇の単位:労使協定事項
 労働者の休息の機会を確保する観点からまとまった単位で与えることが推奨されており、1日、半日、1日または半日のいずれかによって与えることとされています。半日については、原則は労働者の1日の所定労働時間の半分ですが、厳密に所定労働時間の2分の1とせずに、例えば午前の3時間半、午後の4時間半をそれぞれ半日とすること労使協定で定めることもも可能です。
 端数の時間がある場合、労使協定で他の有給休暇を合わせて取得することを認めていれば、代替休暇と他の有給休暇(時間単位の年次有給休暇や会社が任意に設けた特別休暇等)を合わせて半日または1日の単位として与えることができます。下図はその一例です。

③代替休暇を与えることができる期間:労使協定事項
 代替休暇は、労働者の休息の機会の確保が目的ですので、一定の近接した期間内に与えられる必要があります。具体的には、1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月間以内の期間で与えることを労使協定で定めるとされています。期間が1か月を超える場合、1か月目の代替休暇と2か月目の代替休暇を、下図の例のように合算して取得することも可能です。

 なお、労使協定所定の期間内に代替休暇を取得しなかった場合、使用者の割増賃金支払義務は存続し、代替休暇として与える予定であった割増賃金分を含めたすべての割増賃金額を支払う必要があります。
④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日:労使協定事項
・取得日の決定方法(意向確認の手続)
 例えば、月末から5日以内に使用者が労働者に代替休暇を取得するか否かを確認し、取得の意向がある場合は取得日を決定する、というように、取得日の決定方法について協定しておきます。ただし、記述のとおり代替休暇を取得するかどうかは労働者に委ねられています。強制してはならないことはもちろん、取得日も労働者の意向を踏まえたものとしなければなりません。
・割増賃金支払日
 代替休暇を取得した場合には、その分の支払が不要となることから、労使協定で、いつ、どのように支払うかについても定めておく必要があります。
 例:賃金締切日が月末、支払日が翌月20日、代替休暇は2か月以内に取得、取得しなかった場合の割増賃金率50%、取得した場合の割増賃金率25% の場合

図の出所:厚生労働省リーフレット(一部当事務所で補正)
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/091214-1_03.pdf
労使協定の例の出所:厚生労働省リーフレット8頁(2009年7月)