最低賃金の減額特例-「試の使用期間中の者」について

地域別最低賃金は、初期のコロナ感染症の第1.2波で経済・社会が停滞した2020年を除けば、2016年以降、3%超の引き上げが続いており、2022年10月以降も、全国平均3.3%(31円)引上げの目安が示されました。
そのような状況下で、賃金コスト増に苦慮する事業主様から、試用期間中はは最低賃金を20%まで減額することができると聞いたが、というお問い合わせいただくことがあります。
最低賃金の減額特例のひとつである「試の使用期間中の者」(最低賃金法第7条第2号)のことです。インターネットでもいくつかの解説が出ていますが、労基署長の許可要件を見落として、「最大20%減額、最長6か月間」だけに着目してしまうお問い合わせもあるように思います。
以下、「試の使用期間中の者」の最低賃金減額の許可要件について、厚生労働省「最低賃金法第7条の減額の特例許可事務マニュアル(令和4年12月24日基賃発 1224第1号)」に基づいて確認します。

◇「マニュアル Ⅳ.減額対象労働者の調査等に当たっての留意事項」の「許可基準」

(1)試の使用期間とは、当該期間中又は当該期間の後に本採用をするか否かの判断を行うための試験的な使用期間であって、労働協約、就業規則又は労働契約において定められているものをいうこと。したがって、その名称の如何を問わず、実態によって本号の適用をするものであること。
(2)当該業種、職種等の実情に照らし必要と認められる期間に限定して許可すること。この場合、その期間は最長6か月を限度とすること。

◇許可基準に関する判断の要件
許可の判断の要件で厳しいと思われるのは、「許可基準(2)」の「必要と認められる期間」の判断に関する次の記述です。
「当該業種、職種等の実情に照らし必要と認められる期間」とは、次のいずれかの要件を満たす場合において、その実情に照らし必要と認められる期間
ア  当該地域における当該業種又は職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度であること。
イ  当該地域における当該業種又は職種の本採用労働者に比較して、試の使用期間中の労働者の賃金を著しく低額に定める慣行が存在するなど減額対象労働者の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性があること。
◇判断の要件をクリアできるか
アの「当該地域における当該業種又は職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度であること」とは、各種統計調査などからも、実際にありうるのか極めて疑問です。そのうえ、なお書きでは、「当該地域」とは「地域別最低賃金が適用されている地域(都道府県)であり、事業場の近傍近在の地域ではないとしていますから、ますます「本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度」という判断の要件を満たすことは、極めて難しいと推測できるのではないでしょうか。

結論としては、「試の試用期間中の者」について、最低賃金の減額特例の許可を受けることのハードルは決して低くない、と言ってよいのではないかと思います。