「シフト制」–休業手当などに関連して


◇「シフト制」とは
 「シフト制」は、労働契約成立の時点では、労働日や労働時間を確定せず、1週間や1か月などの期間ごとに、勤務シフトで労働日や労働時間を事後的に確定するものです。時々の事情に応じて柔軟に労働日や労働時間を設定できるというメリットがある一方で、会社の都合で労働日が減らされたなどによるトラブルも発生しやすくなります。
 新型コロナ感染症の影響で業績が悪化しており、パート従業員の勤務日や勤務時間を減らしたいが、減らした分の手当は必要なのか–といったお問い合わせを受けることが少なくありません。
 こうした問題に関連して、厚生労働省は2022年1月、シフト制をめぐるトラブルを予防するため、『「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項』を公表しました。以下では、「留意事項」を概観するとともに、その性質を確認しつつ、使用者としての望ましい対応のあり方を検討します。

◇『「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項』
雇い入れ時に明示すべき事項
・「始業及び終業の時刻」に関する事項
 始業及び終業時刻が確定している日については…労働条件通知書等には、単に「シフトによる」と記載するのでは足りず、労働日ごとの始業及び終業時刻を明記するか、原則的な始業及び終業時刻を記載した上で労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要
・「休日」に関する事項
 具体的な曜日等が確定していない場合は、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明示しなければなりません
労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方
 シフトにより具体的な労働日、労働時間や始業及び終業時刻を定めることとしている場合であっても、その基本的な考え方を労働契約においてあらかじめ取り決めてお くことが望まれます。例えば、労働者の希望に応じて以下の事項について、 あらかじめ使用者と労働者で話し合って合意しておくことが考えられます。
・一定の期間において、労働する可能性がある最大の日数、時間数、時間帯 (例:「毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する」など)
・一定の期間において、目安となる労働日数、労働時間数 (例:「1か月○日程度勤務」、「1週間当たり平均○時間勤務」など) これらに併せる等して、一定の期間において最低限労働する日数、時間数などについて定めることも考えられます。 (例:「1か月○日以上勤務」、「少なくとも毎週月曜日はシフトに入る」 など)
労働契約の確認
 当事者間でできる限り書面により確認しておくことが望まれる

◇厚労省「留意事項」への対応
「留意事項の性質
 「留意事項」は、「雇い入れ時に明示すべき事項」として「始業及び終業の時刻」「休日」をあげ、「労働日、労働時間などの設定の基本的な考え方」については「労働契約においてあらかじめ取り決めてお くこと」が望ましいとしています。「留意事項」は、労基法15条の雇い入れ時の労働条件明示義務や労基法89条の就業規則の必要記載事項に関する解釈といえるのか、言い換えれば、「留意事項」は行政機関による指導等の根拠になるものなのか、その性質はどのようなものなのかという問題があります。
 これについては、
「労基法の解釈通達ではなく、単なる文書」「労働関係の権利義務に関わるものではない」(濱口桂一郎「いわゆる『シフト制』の留意事項」労働基準旬報2022年5月25日)、
「留意事項であげられているシフト制の項目については、労働条件通知書に明示しなかったり、就業規則に記載したりせずとも違法ではない」(向井蘭「いわゆる『シフト制』の留意事項への現実的な対応」ビジネスガイド2022年5月号)
などのように、法的拘束力のないものという見解が示されており、「留意事項」を読む限り、上記の見解のとおりであると考えます。
「留意事項への対応
 では、法的な効果がなく、行政指導等の根拠にもならないとすれば、「留意事項」に基づいた対応をする必要はないのでしょうか。結論から言えば、必ずしもそうとは言えないと考えます。シフト制労働者が事業の縮小等のために不就労となった事案について、労基法26条の休業手当の支払いを命ずる判決(ホテルステーショングループ事件・東京高裁判決・令和4年6月15日)や、民法536条2項に基づく賃金請求を認めた判決(ホームケア事件・横浜地裁判決・令和2年3月26日、シルバーハート事件・東京地裁判決・令和2年11月25日)のように、シフト制下の不就労について、「使用者の責に帰すべき事由」による休業とする裁判例が相次いでいるからです。 
 紛争はいったん起きてしまうと使用者の方々にとってはマイナスでしかありません。上にあげた司法の判断傾向も踏まえると、「労働紛争を未然に防止し…契約当事者双方にとってメリットのあるものとするため…当該事項を踏まえて、適切な雇用管理を行うこと」が望ましいのではないでしょうか。
 なお、「留意事項」全文、リーフレットは、以下でアクセス、ダウンロードができます。

(「留意事項」)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870905.pdf
(リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870906.pdf