身元保証書-内容や効力について
採用に際して、会社は、採用予定者に履歴書、誓約書などの書類提出を求めますが、親権者などによる身元保証書の提出を求める例も拝見します。従業員が会社に損害を与えた場合に身元保証人にも損害賠償を請求できるようにしておくなどの趣旨と思います。
身元保証書の提出を求めること自体に法的問題はありませんが、その内容には以下の法的規制があり、具体的な記載内容によっては、法的な効果が期待できない場合や、法令違反として無効になる場合があること留意しておく必要があります。
身元保証書について規制する法律は、2020年の民法改正だけでな、以前からある二つの法律、「身元保証ニ関スル法律」、「労働基準法第16条」の規制も受けています。
◇改正民法
入社時の身元保証書の提出、身元保証契約は、労働者が会社に損害を与えた場合に、労働者本人と連帯してその損害を賠償することを約する契約です。従来、上限額を記載しない身元保証書の例もみられたところですが、無際限な連帯保証から身元保証人を保護するなどの趣旨で、2020年4月以降の身元保証契約については、上限額を定めなくてはならないことになりました。
保証人となる時点でどれだけの債務が発生するのか明確ではない等、保証すべき金額が分からない場合の契約(根保証契約)について個人を保証人とする場合には、上限額を明記しなくてはならず、上限額がない身元保証契約は無効とされました(民法456条の2)。
第456条 の2 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約 (以下「根保証契約」と いう。)で あって保証人が法人でないもの (以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
◇身元保証ニ関スル法律
身元保証人を保護する目的で、昭和8年に制定されたのが「身元保証ニ関スル法律」です。
この法律は、身元保証契約の上限期間を5年とすること(第2条)、労働者に問題行動等があって身元保証人が連帯責任を問われる恐れのあるとき、または労働者の業務内容等が変わることで身元保証人としての責任が重くなったり連帯責任を負うことが難しくなる場合、会社は身元保証人にその旨を通知しなくてはならないこと(第3条)、身元保証人はそのような通知を受けた場合や自らが知ることになった場合には、身元保証契約を解約することができること(第4条)、を定めています。
また、民法456条の2に基づいて、連帯保証の上限額を設けていても、それによって、上限額での損害賠償が担保されるわけではありません。身元保証法第5条が、「金額を定むるにつき被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証を為すに至りたる事由及びこれを為すに当り用いたる注意の程度、被用者の任務又は身上の変化その他一切の事情を斟酌す」としているからです。
この条文の趣旨は、裁判所が損害賠償額を判断する際には、使用者の過失の有無や程度、身元保証人がどこまで労働者の行為を注意できたか、それともかかわって身元保証当時から労働者の任務等が変わっていないか、等を総合的にみるとしているのです。実際の紛争事例でも、身元保証人に求められる賠償額は、損害額の一部にとどまるとする例がほとんどといわれています。
◇労働基準法
労働基準法は、第16条で「使用者は, 労働契約の不履行について違約金を定め, 又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」としています。「賠償予定の禁止」と呼ばれる規定です。身元保証契約についても、この条文に違反し、無効とされる場合があります。
具体的には、「賠償の上限額」ではなく、「〇〇万円」というような具体的金額を記載することで「賠償額」を特定した場合です。
第16条のいう「損害賠償額を予定する契約」の当事者としては、労働者本人だけでなく、労働者の親権者などの身元保証人も含まれると解釈されていますので、身元保証契約の上のような規定は、労基法16条に違反し、労基法第13条「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」により無効となります。
使用者は、上記のような契約を結んでいたとしてもそれに基づく請求をすることはできません。実際に何らかの損害を受けとしても、その場合にできることは、損害の事実を証明し、その実際の価額を請求することになります。