新型コロナ感染症と休業–2.「解雇・失業給付受給」か「休業手当・雇調金申請」か
厚生労働省が公表している新型コロナウイルス感染症に関するQ&Aは、かなり頻繁に更新されます。以下では、「企業向けQ&A」(4月17日付)での追加から、興味深いものをご紹介します。
Q12 タクシー事業者ですが、乗客が減少して苦境にあります。この状況を乗り切るため、雇用調整助成金をもらって運転者の雇用を維持するのではなく、運転者を一旦解雇して失業手当を受給してもらい、需要が見込めるようになったら再雇用することを考えています。
4月上旬、東京の大手タクシー会社が、新型コロナ感染症の流行による業績悪化を理由に従業員全員を解雇する事件があり、その中で、コロナ禍が終息すれば戻ってきてもらうなど、会社が再雇用を約束したかのようなことが報道されました。この事件は、その後に解雇無効を求める仮処分申請が行われるなど、報道ではわからない諸事情があると思いますが、Q12は、類似の事案が生じたことを想定したものと言えるでしょう。
雇用を維持して休業手当を支払い雇調金を受給する場合と、解雇して労働者が雇用保険の失業給付を受ける場合、について説明しています。
解雇については、客観的で合理的な理由がないと無効とされる場合があること、労働基準法に定めた手続きを経なくてはならないこと、再雇用を前提とした解雇では失業給付が受けられなくなる場合があること、その他にも労働者にとって不利益(厚生年金の資格喪失等)が生ずること注意を促してます。
全体として、事業の継続と雇用の維持に向けた努力が十分になされることを求める内容です。なお、【】部分は当ブログでの補注です。
雇用を維持した場合
<事業者の負担>
〇雇用を維持して休業した場合、事業者は運転者に対して休業手当(休業前3か月の平均賃金×60%以上)を支払う必要があります。
<事業者が受けられる支援>
〇事業者が経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合、事業者が運転者に支払う休業手当については、解雇等を行わず雇用を維持する中小企業であれば、その90%を雇用調整助成金として助成する(事業者の負担は10%となる)特例措置を実施しています。【4月25日:100%に引き上げ。7都府県に緊急事態宣言を発令した4月7日の翌日8日以降の休業に適用】
なお、助成額は、前年度に雇用していた全ての雇用保険被保険者の賃金総額(歩合制賃金も含む)を基に算定するため、直近の賃金額の減少は助成額に影響しにくい仕組みです。
〇事業者が売上げ減少の中で休業手当を支払うために手元資金を十分にするため、資金繰り対策として、政府は金融機関に実質無利子・無担保の融資や既存債務の条件変更を働きかけています。また、補正予算の成立を前提に、中小・小規模事業者等に対する新たな給付金も検討していきます。【持続化給付金:法人200万円、個人事業主100万円等】
<従業員が受けられる手当>
〇雇用を維持して休業の場合:休業手当(「休業前3か月の平均賃金」を基礎として算定)
解雇の場合:雇用保険の基本手当(「離職前6か月の平均賃金」を基礎として算定)
(例)平均月収30万円の60歳の運転者の直近2カ月の月収が漸減(25万円、20万円)と仮定
・休業手当:休業前3か月の平均賃金(25万円)×60%以上【60%なら15万円】
・基本手当:離職前6か月の平均賃金(27.5万円)×約53%※【14.6万円弱】
※給付率は、離職前の平均賃金額と年齢に応じて、50~80%で変化します。
〇手当の額は、業績悪化の賃金への影響の程度や個々の運転者の年齢や収入等によるため、どちらの手当の方が多くもらえるかは一概には言えません。
〇雇用保険の基本手当は、再就職活動を支援するための給付です。再雇用を前提としており従業員に再就職活動の意思がない場合には、支給されません。
解雇の場合
<解雇について>
〇解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇は無効とされます。
〇やむを得ず解雇をする場合であっても、原則として、少なくとも30日前に解雇の予告をするか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払うことが必要です。
<解雇された従業員に生じるデメリット>
〇社員でなくなることから、国民健康保険・国民年金加入に伴う届出等の手続上の負担、将来受給できるはずであった報酬比例部分の年金額の減少などが生じます。
〇その他、退職後にケガや病気にかかった場合等には、再就職に向けた求職活動などの際に支障となるリスクも懸念されます。