年次有給休暇の「前貸・前借」?-年5日の付与義務余話

 使用者に年休年5日の時季指定を義務化した改正労基法が施行されてから間もなく1年になります。これまでも、年5日の時季指定についてのお尋ねをいただいたときは、計画年休制も有効な方策の一つですよと申し上げてきました。この場合、計画年休の日に、年休がない方には特別の有給休暇や休業手当の支給が必要になるのですが、中には、年休を「前貸」して、後日に、本来の付与日に与えられる日数からその分を引いてよいですかというお尋ねをいただくことがありました。
 結論から申しますと、年休の前貸・前借はできません。仮に 「前貸」のつもりで年休を認めたとしても、その後の直近の基準日に発生する年休から 「前貸」 分を差し引くことは認められないということです。使用者として法令に即してできることは、発生する前の年休とは関係なく、 特別の有給休暇を与えるか、「使用者の責に帰すべき休業」(労基法26条)として休業手当を支払うのいずれかです。
 「前貸」ではなく、法定の基準日前の日に前倒しした基準日を設けることは、労基法の規定を上回る措置ですから、法令上の問題はありえませんが、この場合、次の点にを遵守しなくてはならないことです。
1.就業規則に基準日の前倒し等についての規定を置くこと
 休暇は労働基準法による就業規則上の必要記載事項てですので、基準日の前倒しや、基準日の統一(一斉付与日)について規定しなくてはなりません。
2.上記とのかかわりでも、その年限りのことでは終わらないということです。さらにいえば、厚労省の通達は、その年以降の年休の基準日は、 前倒しした日かそれよりも早い日にしなくてはならないとされています。例えば、法定の基準日が10月1日(4月1日採用の6か月経過後)の方について、4月1日を前倒しした基準日として10日以上の年休を発生させた場合、次の年度も、10月1日ではなく遅くとも4月1日、またはそれより前の日を基準日としなくてはならないということです。
 労基法との関係では年休の前借・前貸はありえず、前倒しでの年休付与・取得を行う場合は、 それ以降の基準日は、法定の基準日ではなく、前倒しした日またはそれ以前の日になることを承知したうえでのことになります。