台風と休業手当-季節もの・1-1
Q: 台風で交通機関が止まり、半日以上の遅刻や全日欠勤の従業員がでてしまいました。一部欠勤や終日欠勤の従業員につて、その日の賃金等はどうすればよいのですか。
A:この事例の場合、使用者として (ⅰ)休業手当、 (ⅱ)賃金の支払いのいずれも、義務はないといってよいでしょう。
(ⅰ)休業手当
労基法26条は、使用者に民法上の過失責任がない場合でも、使用者が「不可抗力」を主張できない場合は、「使用者の責に帰すべき事由」による休業として、平均賃金の6割以上の休業手当の支払を定めています。Qのような事例の場合、「使用者の責に帰すべき事由」ではない、言い換えれれば使用者にとっての「不可抗力」=①事業の外部で発生した事由により、②経営者として最大限の注意を尽くしてもなお避けることができない、をともに満たしているとう主張が可能と思われます。つまり休業手当の支払い義務はないとされる可能性が高いといってよいのではないでしょうか。
念のためですが、台風等の「天災事変」のためとはいっても、 単に「今日はお客さんもこないだろうから」といった理由で休業する場合は、「事業の内部」での判断に基づく休業であって、「不可抗力」による休業ではなく、休業手当の支給が必要になる可能性が高くなるでしょう。
厚生労働省は、台風など自然災害で大被害が発生した都度、労働関連法についてのQ&Aを公表しています。交通機関の問題に直接に答えるものはありませんが、「使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しない」場合について、「取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要がある」としています。大変に慎重な言い回しですが、Qの事例は、「使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しない」とされるように考えます。
(ご参考)
「 令和元年台風第 19 号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A 」
https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/content/contents/roudoukijyunhou-keiyakuhou-QA_011101.pdf
(ⅱ)「賃金」の支払い義務がない理由
雇用契約という双務契約において、一方の債務者である労働者が交通機関の障害により「債務の履行」(労務の提供) ができなくなった場合、その履行不能は労働者の責に帰すべき事由によるものではありません。しかし、もう一方の債務者(労務の提供に対す報酬を支払うべき者)である使用者についても、その責に帰すべき事由よるものでもありません。このような場合、双務契約である雇用契約で一方の債務(労務の提供)が消滅したときは、もう一方の債務(反対給付としての報酬の支払い)も消滅することになります (民法536条1項)。債務の履行不能の危険負担は、履行不能になった債務を負う者(この場合は労働者)が負担するということになります。